抜糸と、その後
以前の記事、額のド真ん中が割れるように切れた 前編 - 分かちあいたいブログ
では、おでこを怪我して縫合した事を書いた。
あれから抜糸をするまでの一週間は、化膿しないよう清潔を心がけ、傷口を洗浄して傷テープを額に貼り付けシッカリ保護して、不意に傷口に手や物が当たって「ううっ!」とならないよう慎重に慎重を重ね心労の耐えない一週間を過ごした。
おデコのど真ん中に貼り付けた傷テープは隠しようがなく、たやすく人の視線を捕まえる。「お気の毒に」と思うと同時に、何があった?、「殴られたのか?!」とDVを心配する人もいた。いえいえ、つまずいただけです。
縫合した傷を鏡で見るたび、ギョッ!
今は、何より重要で緊急度の高い抜糸を抜きにして、他に意欲を掻きたてるものなど他には何も無く、抜糸までの一週間は全てに於いて上の空で過ごしてきた。
想像することは抜糸のことばかり。それは私を不安にさせヘッピリ腰にもさせる。縫い糸をピッと引っ張り抜く際の痛みとは如何ほどのものだろう。
この恐怖を克服する術として、考え付いたのは、過去に痛みを伴った経験の数々を思い出し、脳内でそれを繰り返し再現するという作戦。ネガティブにはネガティブの物差しでもって量り、痛みに耐性を作り、痛い怖いは大した事ではないと自分を偽りきる。そうなれば、抜糸当日の気分は平気の平左で余裕しゃくしゃくではないかと。
が、せいぜい思い出すのは、足の小指を家具の角にブツケた時の不快感くらいなもので、消え失せた痛みって案外忘れるもんなんだなと作戦は失敗に終わりそうな気配。とこんな具合に地に足つかずのまま日は過ぎ、いよいよ抜糸の日が訪れる。
形成外科の診察室前、神妙な面持ちで待合に座り呼吸を整え平静を装った。
右隣に座るご婦人と目が合う。その隣に座る紳士とも目が合った。なんと驚くことに、この待合の長椅子には、額に傷テープを貼った多数の一般市民が座っていたのだ。老若男女、車椅子に座る高齢の方も額に大きなガーゼを貼り付けていた。
おデコ傷日和・・こんな言葉が思いついた。
左隣では、利発そうな男児が母親に付き添われ、今日は抜糸がどうだのと、元気イッパイの様子で、私の目の前を時折ウロウロしながら診察はまだかまだかと待っていた。静まり返る待合に、病院が済んだら幼稚園へ行くだとかお友達の話しだとかを幼児は母に話すその会話の声が大きく丸聞こえで、束の間、抜糸の恐怖を忘れさせもくれた。緊張が少しほぐれたかんじだ。怖がる事など何もない。この男児を見よ。満面の笑みを浮かべて、糸がやっと抜けると言ってポディティブそのものじゃないか!
恐れを知らない男児の姿に勇気を貰ったような気になり、ホッコリしているところに、男児が診察の番となり、ハーイと元気良く中へ入っていった。
男児がいなくなり待合は静まり返った。とその時、ぎゃーあーあーっ!!うわーっ!ひぃーっ!あああーっ!!と男児の泣き喚く声と、こらっ!!やめなさい!!と男児の母親らしき女性の声が待合に響き渡った。
想像を絶するようなことが中で行われているのか・・
抜糸、怖い。一挙に私は恐怖のどん底に突き落とされ、名が呼ばれまでの間、お腹が痛くなったのだった。
抜糸終了
先ほどまでの恐怖をよそに痛みを感じることなく、息を止めていおいても大丈夫そうな何秒かで抜糸は終了した。
医師は、3ヶ月位はこのテープを貼っておこうね、と。
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今、私の切り傷は、額の真ん中に縦に3センチ少しカーブを描いて、赤く筋が入っている。
「もう、キらぬでござるよ」