分かちあいたいブログ

福祉サービス事業所で働いてます。福祉のこと。他いろいろ 

「重労働で低賃金」は介護職の共通言語

 「日々の介護に疲れていた。私の苦しみを誰かに気付いて欲しかった」

 

 

 

介護を必要とする高齢者の暮らしの場である施設に事件が起こった。その衝撃は勿論のこと、逮捕された介護士の言葉から、仕事とプライベートの境界がぼやけてしまっていることが窺える。日々の介護に疲れていたと言うが、業務として介護をするというよりも、この言葉はまるで、介護が必要な高齢者と同居する家族のようであるし、苦しみに気付いて欲しかったとも言ったようだが、事件を起こさなくとも辛くて苦しい「重労働で低賃金」が世に知れ渡り介護職以外の人にも広く認知された事で「重労働で低賃金」は全国に通用する共通言語となり、それは介護従事者の苦を共有する合言葉でもあるはずだ。

 

ところが、この事件から想像するのは、孤立感や仕事の線引きの曖昧さや転職したところで同じだという絶望感。「重労働で低賃金」どんなに辛くても怒りが湧いても、利用者にそれを向けることは介護従事者に許されていない

 

 介護の仕事は感情労働とも言われている。自分の感情をコントロールして、利用者の感情にも関わっていくが、介護従事者にこの感情労働分の賃金は含まれていない。肉体的な消耗に加え、磨り減らした感情に打ちひしがれた介護士たちを再び奮い立たせるのに賃金という手段を持っていない「重労働で低賃金」に手っ取り早く用いられるのがパワハラの変容ともいえるポエムである。ありがとうと言われる事、感謝される事、これが感情的な報酬で、これがあるからヤリガイで生きがいのある仕事で素晴らしい!介護は愛!と利用者が発するポディティブな感情が賃金だと言わんばかりの軽やかさを信じたところで燃え尽きの空虚感からの回復は期待できないので、感情的報酬は、お金で下さい。ポエムをお金と交換して下さい。 

 

そうは言っても感情労働が外せない重要なことの一つに高齢者虐待防止法がある。介護従事者には利用者の人権を守る役割があり、利用者の人権が侵害されている場合は通報する義務がある。だから利用者と接していて、頭に血が上りカッとなったとしても、叩いたり暴言を吐いたりしてはダメなのだ。高齢者の人権を守る側にいることを思い出し、速やかに自分の感情をクールダウンして利用者の感情に巻き込まれないように平常心を保つ必要がある。相次ぐ介護従事者による事件や事故の虐待報道に、高齢者介護に止むを得ない暴力は許されますという行政からの通達を待つより先に介護従事者の心を守る手立ても「重労働で低賃金」と同様に急ぐのがいいかもしれない。

 

 「重労働で低賃金」と繰り返しているが、私はこのフレーズを気に入っている。これを経営者に言ってみた。こじんまりとした会社なので言い易いといえば言い易いが、この「重労働で低賃金」が世に出回るまで言わずに我慢していた事がある。シングルマザーなど稼ぎ手が世帯を背負うのに介護職は低賃金すぎやしないかと常日頃感じていたので、これが大々的なニュースとなった時、何故安いのだ?と問うと、どこも似た賃金だろうという返事であった。

ケアの社会学――当事者主権の福祉社会へ(著者/上野千鶴子)にはケアワーカーの賃金は何故安いのかと考察されている。以下その一部引用です。

“政府は介護報酬を低く抑え、事業所は賃金を上げようとせず、利用者はできるだけ低価格のサービスを使いたいと選考してきた”(p435

 

高齢者人口が増加するにつれ、全国津々浦々この環境下で働く介護従事者の苦が「重労働で低賃金」という言葉に集約され明るみにされた事でケシカランと怒る人もいるが、私は救われたような気でいる。苦しいと思っているのにそれを否定する人の数は少ない方がいい。それと、「重労働で低賃金」ここに立ち返ることで、介護士を潰しかねない過剰な介護サービス要求への対処が変わる事を願っている。

 

 

 

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