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第153回芥川賞受賞作 家族介護がテーマの小説 『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介 【読書感想】

介護がテーマの小説を初めて読んだ。 第153回芥川賞受賞作、羽田圭介氏の『スクラップ・アンド・ビルド』 

 

ざっと内容をいうと、主人公の孫の健斗28才は求職中で家にいることが多く、同居する祖父87歳(要介護3)を次第に意識するようになっていく。リビングでは祖父が視野に入る、祖父が歩けば杖をつく音が聞こえる、祖父が繰り返す言葉は「早う死にたか」。健斗は革命戦士として自らをビルドし祖父の魂の声であるに違いない「早う死にたか」を達成させようとするが、しかし・・

 

* 

『スクラップ・アンド・ビルド』は主人公が孫というのが興味深い。孫が祖父の思いに耳に傾け、自立支援とは、尊厳死とはと考えあぐね孫が介護を実践する。そこにほのぼのとしたものはない。家という閉ざされた空間の中で行う家族介護は生き残りをかけたサバイバルであった。

 

  素人は引っ込んでろ!

 目先の優しさを与えてやればいいとだけ考える人間は困る(中略)

健斗の過剰な介護は(中略)行動理念が違う。

まず出口を見据え、自分の立場を決めてから出直してこいと思った 。

 

健斗は、祖父の安楽な尊厳死を遂行すべく過剰な足し算介護で脳のシナプスの細胞を絶たせる作戦に出る。それは祖父の日常の生活動作を低下させ生活の質を落し、祖父の「早う死にたか」のモチベーションを維持させ募らせるという祖父の魂の声を聴き取ったからこその実践であり、この世の執着を絶ってこそモチベが維持できると考えたからだ。

 

これを介護業界に落とし込んで考えてみた。あくまで私の想像したプランであるが、利用者とその家族の意向を額面通り聞き入れ尊重したプランの長期目標は「生きるのが嫌になります」で短期目標が「何もできなくなります」がケアチームの目指す共通事項となり個別援助計画に過剰な足し算介護を盛り込んでサービスを実践していく。がしかし小説を読み進めると、死ぬことを目標としたプランが現実に存在しないことの裏付けなる描写がみられた。祖父が生にしがみつく場面に健斗が立ち合うのだ。これには私も健斗同様に揺らいだ。私が想像したプランは完全に没だ。他者が当事者の代わりに生き死にの道をつけるのは危険なことである。そして当事者を代弁することの困難さを改めて知る。

 

介護を家族に任せるだけの耐性がなくなった現在は介護が家族の問題から社会の問題へと広く世に知られるようになった。がこれといった打開策はなく高齢者の行く末はお天道様のみが知る。

 家族介護がテーマの小説『スクラップ・アンド・ビルド』軽く読めてクスっと笑えて面白かったです。

 

 

 

スクラップ・アンド・ビルド

スクラップ・アンド・ビルド