分かちあいたいブログ

福祉サービス事業所で働いてます。福祉のこと。他いろいろ 

イソヒヨドリ

イソヒヨドリという海岸周辺に生息する鳥が、私が住む賃貸住宅の外廊下の塀に止まっていた。ここは山側なのでイソヒヨドリは珍しく初めて見たが、さほど気にも止めずに外廊下を歩くと、その鳥は何処かへ飛んでいった。

 

翌日、ドアに鍵をかけ振り向くと、昨日見たイソヒヨドリが外廊下の塀に止まっていた。口ばしには昆虫をくわえている。視力のいい私は昆虫の無惨さに目がいってしまい、一瞬たじろぎヘッピリ腰になったが気を取り直して外廊下を歩いた。鳥は、私との距離を保ちながら塀の上を跳ねて後ずさりをして、なかなか飛ばずにいるので人馴れしているように見えた。角っこで私と距離が縮まって鳥は飛んでいった。

 

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それから数日後のこと。部屋で過ごしていると鳥の鳴き声が近くで聴こえてきた。それが何とも耳に心地良くてベランダに目をやると、そこにイソヒヨドリがいて、そーっと窓を開けたが気づかれてしまって直ぐさま何処かへ飛んでいった。

 

イソヒヨドリの鳴き声が、あまりにも美しかったので耳に残った。もう一度イソヒヨドリを見てみたくなって、用も無いのに外に出ては外廊下から空を見上げ電線に止まる鳥らを眺めていた。とその時、こちらを目掛けて飛んでくる鳥がいた。イソヒヨドリである。塀に止まったイソヒヨドリを見ながら、こんな事ってあるんだなと感動のような興奮を味わい心躍らした。イソヒヨドリはその日を境にドアの鍵をガチャッとすると飛んでくるようになった。

 

毎日見ていると餌付けしたくなる衝動に駆られもしたが住み着いたらコトになりそうで、それはしないことにした。それにしても、口ばしにくわえている虫は半殺しのようで蠢いている時もあり、見慣れたとは言え気持ちのいいものではなかった。

 

ある時いつものようにイソヒヨドリは何処かいなと外廊下に出て辺りを見回していると、すぐ真下の農家の倉庫からピーピーとか弱く鳴く声が聴こえてきた。声の方を見ると二羽のイソヒヨドリが倉庫の屋根に止まっていた。

 

私の側にイソヒヨドリが何故近寄ってきたのか、それでようやく合点がいった。子育て中のイソヒヨドリは外敵から雛を守るため、警戒怠りなく厳重に見張る必要があり、外廊下からキョロキョロと顔を出して覗く私の存在は、イソヒヨドリ夫婦にしてみれば不審者そのものであったのだ。この外敵めが雛に何かするようであらば口ばしにくわえた虫の如く半殺しの目に遭わすどころか息の根を止めてでも巣への進入を阻止し雛を守らねばならない。口ばしで突き回すことなど朝飯前の十八番攻撃なのだ。私はイソヒヨドリ夫婦を恐怖に陥れ怒りを買ってしまったかもしれないので、きっとそうするに違いないという思いに至り、その日から、イソヒヨドリの目に付かないように住居側に張り付き気味で外廊下を早足で歩いた。

 

イソヒヨドリはいつからか姿を見せなくなった。ピーピーいう雛の鳴き声も聴こえなくなったので無事に巣立っていったのだろう。それにしてもベランダから聞こえてきたあの鳴き声があんまり美しかったので、いつかまた聴けたらなと思う。