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読書 「JR上野駅公園口」 柳美里  

男は、貧しい農家の長男として生まれた。一家を支えるために、十二の頃から働き、晩年は、ホームレスとなり、人生を回想する。

 

JR上野駅公園口

JR上野駅公園口

 

 

東北出身の男は、出稼ぎにより家族の食い扶持を家に仕送りすれども、貧困の家族連鎖は、我が子にまで影響を及ぼす。

滅多に帰らない父親に懐かず、甘えたりねだったりすることをしない浩一が「お父ちゃん乗りたい」と繋いでいた手をぎゅっと握り締めた。はっきりと顔が浮かぶ。言いづらいことを言いかけて、気後れして何度も口を閉じ、しまいには怒ったように真っ赤になった浩一の顔、だが、金がなかった。(中略)

代わりに、当時十五円だった松永牛乳アイスまんじゅうを買ってやると洋子はすぐに機嫌を直したが、浩一は父親に背を向けて泣き出し、しゃくりあげて肩で息を刻み、金持ちの家の男の子を乗せて飛び立つヘリコプターを見上げては、拳で涙をぬぐっていた。

 

格差を目の当たりして、自身の貧困が晒される。それは、子どもであろうと容赦なく、「諦める」という態度を強制させてしまう。

 

男の息子は高校を卒業し、レントゲン技師を目指した。その為、今よりもっとお金が必要となった。

就労の機会を、出稼ぎより他は持っておらず、家族の写真も無く、団らんの思い出もなく、ただひたすら、生きていくため、出稼ぎをして働いた。

ところが、男の人生に、息子の突然の死という不運が訪れる。 

 

 ・東京オリンピックが終わった辺りから、東北や北海道にも都市開発の波が押し寄せ、幹線道路、鉄道、公園、河川整備などの公共事業の土木工事が盛んになり、学校や病院や図書館や公民館などの施設も次々と建設された。(中略)あの日は朝から雨だったが、福島の須賀川市役所のテニスコート予定地をツルハシで掘っていた。

・眠っているようにしか見えない浩一の、自分そっくりな顔をみていると、自分の人生はなんだったのだろう、なんて虚しい人生だったんだろう、と思わずにはいられなかった。

・暗闇の中に一人で立っていた。

光は照らすものではない。

照らすものを見つけるだけだ。

そして、自分が光に見つけられることはない。

ずっと、暗闇のままだ 

 

 あとがきには、

作者の柳美里さんは、上野公園の「特別清掃」という取材をホームレスの方々にされ、東北出身者が多いことを知ったこと、2011年の東日本大震災の直後から原発周辺地域に通いはじめ、その一年後は、福島県南相馬市役所内にある臨時災害放送局南相馬ひばりエフエム」で「ふたりとひとり」という30分番組のパーソナリティを務められ、また仮設住宅の集会所を訪ね、お年寄りから話しを聞き、原発を誘致する以前は、出稼ぎに行かなければ生計が成り立たない貧しい家庭が多かったという話しを何度も耳にした、と書かれています。

多くの人々が、希望のレンズを通して六年後の東京オリンピックをみているからこそ、わたしはそのレンズではピントが合わないもの見てしまいます。

「感動」や「熱狂」の後先を。

 

読み終えて、「格差」「貧困」の問題を認識するようになりました。小説のなかで男は、不運を受容する際「運がない」と反復しますが、この問題は、そうなったのは、本人の運や努力や頑張りの結果で済んでしまうことなのでしょうか。・・。

日本は、長い間、自己責任論という理由で、ホームレスや貧困の問題を放置してきたようですが、「格差」「貧困」の実態に、責任のとりようがない子どもが巻き添えになっていることは無視できない。幼少時の環境要因が、人生の苦難に持ちこたえるだけの耐性の脆弱さと結びついてしまわぬよう、健全さを取り戻せるよう、社会の構造が変わっていくことを願うばかりだ。

 

 

JR上野駅公園口

JR上野駅公園口

 

 

格差社会 (福祉+α)

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